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第98話 計画開始

last update Last Updated: 2025-05-22 11:08:18

 堅苦しい晩餐会を終えた後は、パルティア王城の貴賓室に通された。

 これまた立派すぎて落ち着かない部屋である。

 馴染んでいるのはディアドラだけで、俺とイーヴァルは身の置き場のなさを感じていた。

「首尾よく話がまとまって、よかったのう」

 |天鵞絨《びろうど》の一人掛け椅子にゆったりと腰を沈めて、ディアドラが言う。

「そうですね。権利面でもっとあれこれ言われるかと思いましたが」

 俺はうなずいた。

 実際、もっとゴネられそうな場面で例の変な声が割って入ってきたんだよな。

 そうだ。あの変な声について確認してみよう。

「妙なことを聞きますが。変な声が王様を説得した……なんてことはないですよね?」

「はぁ?」

 俺が言うと、ディアドラが呆れたように声を上げた。

 イーヴァルも首を横に振っている。

 俺はこれ以上言うべきか迷った。

 パルティア国宝のヨミの剣が意志を持つ武器で、好き勝手にしゃべる奴だと。

 しかもそいつの助言(?)で国王の心を動かした。

 いや。迷ってどうする。

 ここにいる人々は味方で、俺に力を貸してくれた。

 それなら俺が得た情報くらい渡すべきだ。

「声が聞こえたんです。男とも女ともつかない妙な声が。あれはおそらく、ヨミの剣の声」

 ディアドラが目を見開いた。

「なんと、ヨミの剣は『生ける武器』と呼ばれているが。しゃべるほどにしっかりとした自意識を持っているとは」

「生ける武器ですか?」

「ダンジョンで稀に見つかるじゃろう。その武器を使い続けて敵の血を吸わせれば、成長していく。その究極形がヨミの剣と言われておる」

「へぇ……」

 実は生ける武器はダンジョンで見かけたことがある。

 ただ初期状態だととても弱い上に、味方の獲物と種類が合わなかったのでスルーしていた。

 ディアドラは続ける。

「ヨミの剣は初代パルティア王の時代から続く宝剣。つまり三百年ほども生

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    「そうだよ! あたしは昔、生きるために娘を売った。でも奴隷商人は約束の半分のお金しかくれなかった。おかげで家族はばらばらになって、こんな場所で難民をしている」 年配の女性も叫んだ。「だけど、ここにいたって暮らしていけないわ!」 若い女性が言い返す。「それならこの人についていきたい。本当に土地がもらえるなら、また農業で暮らしたい」 難民たちの意見が割れた。将来の希望を夢見る人と、絶望してしまっている人がいる。 彼らはそれぞれ迷っているようで、意見はまとまらない。 しばらく様子を見た後、俺は大声を張り上げる。「心は決まったか? まあ、今すぐ決めろとは言わない。数日後に改めて聞きに来る。そのときまでに決めておいてくれ」「と、いうことだ」 バルトが俺の話を引き継いだ。「よく考えるんだね。ただ、お前たちは選択肢を与えられた。それを忘れるな。今までの人生で自分の意志で選ぶなど、どれだけあったか思い出すといい。奴隷ごときに選択の機会を与える彼が、どういう人物なのかと、ね」「バルト、そんなもったいぶった言い方するなよ」 背中がかゆくなる。 小声で言ってやると、彼はニヤリと笑った。「このくらい言っておかないと、あいつらには通じないよ。貧すれば鈍する。毎日食うのでカツカツだと、ろくに物事が考えられなくなるから」「それは分かる……」 十五歳で冒険者を始めたばかりの頃、俺もそうだった。 毎日生きるのに必死で先のことなど考えられなかった。 俺の場合はそれでも冒険者という職業があって、町の人の依頼と親切に支えられながら前に進めたが。 もう少し運が悪ければ野垂れ死んでいた。あるいは、奴隷商人に捕まって強制労働でもさせられていたかもな。「じゃあ、後は任せた」「はい」 盗賊ギルドお抱えの奴隷商人に後を頼んで、俺たちはマナフォースの町に戻った。

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     魔法都市マナフォースには、到着から二週間ほど滞在した。 議会承認と手続きが終わるのを待っている間、俺とバルトは約束を果たすべく動いていた。 マナフォース内の難民をまとめて奴隷にする計画だ。……なんか、まるで悪人みたいな言い方になってしまったな。 それはともかく。 元首であるディアドラとマナフォース議会の許可のもと、衛兵たちの力を借りて難民を町の外に追い立てる。 逃げようとする者は強制的に捕まえた。老若男女、子供でも容赦なしだ。 ちょいと心が痛むが、難民たちはマナフォース住民に迷惑をかけ続ける存在でもある。それに何より、このままここに居座ったっていいことは何もない。手心は加えるべきじゃないだろう。 町の外に追い出した難民は、奴隷商人が片っ端から捕まえて手かせをつけていった。 数は百人以上はいるな。あちこちから悲鳴が上がっている。 胸くそ悪いがここで止めるわけにはいかない。「お前たちは許可なくパルティアから逃げ出し、マナフォースに不法入国をした。マナフォースにとっても、パルティアにとっても、お前たちは犯罪者だ。犯罪者が奴隷になったとて、文句はないよな?」 バルトが冷たい声で言う。 抗議の声は完全に黙殺されてしまった。 次は俺の番だ。「俺はユウ。今回、奴隷商人を手配してお前たちを買い付けた。俺は事情があって、人手をたくさん必要としている。だからお前たちを使う予定だ。ただし行き先が北の土地で、成功の保証はまだない。だからお前たちが選ぶといい。俺といっしょに北で開拓をするか、パルティア王国に残って奴隷として過ごすか」「北で開拓するだって? 無茶な!」 難民たちの間から声が上がる。「南の土地だって開拓村は潰れてばかりなんだ。北で開拓なんかしてみろ、全員寒さの中で飢え死にだろうが!」「そうだ、そうだ」「そんな自殺まがいのことに付き合っていられるか」 だいぶ評判が悪いな。ここで人手を確保できないと困る。 そこで俺はさらに言った。「勝算はある

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第90話 魔法都市国家マナフォース6

    「森の民は閉鎖的な民族だった。森に閉じこもって暮らし、諸国が言うような攻撃性などあるはずがない。だが、その閉鎖性と特殊性が仇となった。謎に包まれた民族として噂が噂を呼び、尾ひれがついていった」 ディアドラは言う。 森の瘴気とは非常に濃い魔力のこと。濃すぎるために森の民以外には毒となる。 彼らは独自の神を信仰していたが、別に邪神ではない。森を守護すると言われている神だった。「その神の……」 ディアドラは少し迷ってから続けた。「神の秘宝を狙って、アレス帝国は戦争を仕掛けた」「…………!」 俺は思わず彼女を見る。その話が本当なら、戦争の真実は一般に流布しているものと真逆になる。 ディアドラは続けた。「秘宝の名は『エーテルライト』。星の光が渦巻く宝玉と伝え聞いている」「それは、どのような秘宝なのですか」「我が父――森の民である彼によると、魔力を無尽蔵に溜めておけると。溜めるだけではなく放出や分配も可能ということじゃ」「かなりとんでもない効果ですね……」 魔法使いにとっては、魔法がいくらでも使えることになる。 それに放出。魔力の放出そのものが威力ある武器になるとしたら? アレス帝国が狙うのもうなずける。「アレス帝国が単独で攻め入らず、諸国同盟を組んだのは、森の民が手強い相手だったのが一つ。森の民はそこまで数が多くないが、一人ひとりが手練れの魔法使いで、しかも深い森に住んでおった。当時は今ほど強大ではなかったアレス帝国にとって、リスクが高かったのだろうな」 ディアドラはため息をついた。「そしてもう一つは、責任の分散。正直に言えば森の民を滅ぼすほどの大義名分は、存在しなかった。一国で戦争をすれば他国から責められる口実を与えかねん。そこで秘宝の存在をちらつかせ、諸国を煽ったのだろう」「秘宝は、エーテルライトはアレス帝国が奪ったのでしょうか」「不明じゃ。だが

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